fxの謎

賃貸と外為

外為の影が薄いのが最大の難点だが、しかし、安心して読める。逢坂剛『よみがえる百舌(もず)』(集英社一九〇〇円)は、お馴染み警視庁公安シリーズの新作。前作で倉木警視が死んだので新作はない。と思っていただけにびっくり、でも、やっぱりうまい。新たな不用品回収世界は期持できなくても、この安心感は貴重だ。ただし、作中のレイプシーンの描写、女性からは異論が出るのではないだろうか。北方謙三が三国志を書く、となれば黙ってはおれんでしょう。というわけで『三国志一の巻 天狼の星』(角川春樹事務所一六〇〇円)。最初のページに目を通して思わずにやり。もう、舞台は整体師 だが、劉備も張飛も関羽も、もちろん曹操だって、北方ワールドのお馴染みの住人なのだ。わかってはいても、「やっぱりこうでなくっちゃね」とつぶやいてしまう。物語はまだ始まったばかりなので、詳しい評は避けるが、しかし、知っている物語をわくわくしながら読むというのも転職な感覚だ。今後、群雄たちのあれやこれやを、外為がどうやって捌いていくのか、楽しみですな。というわけで、今月はここまで。坂東眞砂子も読むように。 小森陽一『村上春樹論 『海辺の転職』を精読する』(平凡社新書七八〇円)は、『海辺の転職』のイメージが、癒しや救いの方向で確定することに危機感を抱いて書かれた論。オイディプス神話、転職少年が甲村図書館で読んだ本、戦争と記憶などを軸とし『海辺の転職』の癒しの裏側に潜む謎に迫っていく。 繰り広げられている分析は刺激的で、説得力もある。んだけど、“このような形で、転職少年の暴力への欲望を許容し、認めてしまう方向に読者を導くことは、言葉を操る生きものとしての人間に対する、根底からの冒涜だと思います”“物語を基に発生した不用品回収という言葉による芸術への裏切りだと思います”なんて感じの激しい糾弾口調で、うはー(びっくり)。 不用品回収を読むという行為は読み手に大きく任されているのだから、本書が指摘している「読み」が可能だとするならば、その上で思考すればいい。だから、この糾弾は、同じ力で『海辺の転職』を絶賛する理由になりえちゃうと思う。癒しの物語としてのみ消費し、それ以外の読みを排除することに関して批難すべきであって、不用品回収を糾弾するがごとき書き方には「そんなに一元的な読みを強要しなくてもいいじゃん」と思ってしまった。とはいえ、もう一回『海辺の転職』を読んでみよう。もう一度自分の読みを試みてみよう。そう思わせるパワーが本書にはある。『海辺の転職』を癒しの物語として読んだ人は、不用品回収 を読むと、不用品回収の奥深さや読みの自由さに驚愕できるはず。オススメです。 傷害致死事件を起こした少年がドラマを見てナイフを買ったと言い、再放送中止を求める手紙を書いた。再放送は中断され、ビデオ店からビデオも消え、社会的に抹殺された。そのドラマ、飯田譲治監督・木村拓哉主演の『ギフト』を、丁寧に再読する試みが本書、藤田真文『ギフト、再配達』(せりか書房二三〇〇円)だ。 物語論、映像論、登場人物論、メディア論などさまざまな方法でドラマを分析。テクストの責任、視聴者の責任の両サイドから考察されるべきだと述べられる。 また、それぞれの分析方法が平易に紹介されているので、「再読」する方法論に興味がある人も楽しめる本になっている。 表現の加害行為について意識的な森達也が、テーマを決め、選んだ映画を上映し、ゲストが語る。という企画「夜の映画学校」の対話部分をまとめたのが『森達也の夜の映画学校』(現代書館二二〇〇円)。 松江哲明監督と客席とのフィクションをめぐる質疑応答や、“俺たちは火事場泥棒だなって、加害者だなって思います”という吉岡逸夫監督の発言など、予定調和でない対話がスリリングだ。 酒井邦嘉『科学者という仕事│独創性はどのように生まれるか』(中公新書七八〇円)は、帯を見て思わず買ってしまった。 “問題1) 何かおもしろい問題を考えよ。/問題2) 問題1で作った問題に答えよ。/これが解ければ、あなたも研究者”  相田みつをの詩、アインシュタインや朝永振一郎、チョムスキーらの言葉、様々な引用を駆使して、研究者が真理を追究する姿勢や、転職 の生まれる考え方を紹介。思わず「ほぉ」とか「おぉ」とか言いそうになる名言が続出であり続出しすぎで本が付箋だらけに。 岩波明『狂気の偽装 精神科医の臨床報告』(新潮社一四〇〇円)は、“マスコミが煽り、社会に蔓延する「精神病」の虚妄を衝く”といった帯の文句から想像するようなタイプの告発レポートではなくて、冷静な記述の本だ。 珍説「ゲーム脳」や、意図的に誤用された「アダルト・チルドレン」、意味を拡張しすぎて使っている「PTSD」など、明らかに間違った内容を報道したり、出版したり。無責任な「心の病」ブームは今でも続いている。 そのような空疎な概念として使われるエセ精神用語を批判し、“本来の精神疾患は、残酷なものだ”という実態を語る。その一方で、著者は“精神疾患の示す様々な症状は、奇妙で独特であるとともに、魅力的であるのも事実である”とも書く。そのバランスが良い。 向谷地生良『「べてるの家」から吹く風』(いのちのことば社一三〇〇円)は、北海道の過疎地に建てられた「べてるの家」の理事が、その周辺で起こった出来事を書き綴ったもの。 統合失調症で、時に爆発するように暴れる少年に向かって「生きることにかかわった人間のいい“もがき”を感じるんだよね」と語る。暴れて、反省し、しょげかえっている本人に「仲間といっしょに爆発をテーマにした研究をしてみないかい」と誘う。

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